東洋大学パワハラ裁判
第一審準備書面3
令和4年(ワ)第16508号 損害賠償請求事件
原 告 福田 拓也
被 告 学校法人東洋大学
準備書面3
2023(令和5)年2月16日
東京地方裁判所 民事部第42部合議A係 御中
原告訴訟代理人
弁 護 士 笹 山 尚 人
弁 護 士 本 間 耕 三
第1 原告準備書面2の事実主張の追加
1 ハラスメント9について
(1)認否
被告が第1準備書面の12ページから13ページにかけて記載している授業講座の運営予算については、予算の執行状況についてその具体的内容を原告に確認できないので、不知。
以下の点は、明確に被告の主張は事実に反するので、指摘しておく。被告が第1準備書面12~13頁に掲げる法学部語学教育の授業・講座等運営予算の表にある2018年英語の海外研修補助は¥30,000ではなく¥300,000である。また、2017年フランス語授業図書等は、訴状第22号証にある通り、¥65,000ではなく¥57,757である。授業講座運営予算表「海外研修補助」欄の「海外研修補助」はこの表にしか存在しないフィクションであり全くの虚偽である。
13ページの第1段落は否認し、第2段落は、予算の執行状況についてその具体的内容を原告に確認できないので、不知。
(2)原告の主張
被告は、フランス語にも他の言語と比べて遜色のない予算がつけられ、また執行されているかのように説明することで、フランス語に対する差別待遇、劣遇措置がないかのように主張するが、そこには多くの説明していない事実等がある。
それらの事実を踏まえれば、被告の主張は誤りであることがわかる。
① 被告は第1準備書面11頁において、「例えば、原告は、第2段落において、「フランス語には一貫して全く予算がつけられていない。」と主張するが、原告提出の甲第20号証によれば、原告は、**氏に宛てた、2016年8月23日付けメールの中で、「フランス語検定3級について、今は半額援助となっていますが、これを全額援助として頂きたいと思います。」と記載しているほか、訴状においても、「現行で検定3級以上検定料半額免除をフランス語だけ全学援助にしてほしい」と教務課長に求めたと主張している」ので、全く予算がつけられていないというのは誤りであるかのように主張している。
しかし、検定料半額援助は、フランス語だけではなくすべての語学が享受しているものである。フランス語以外の語学には、この検定料半額援助以外に、そしてやはり法学部のすべての教員に原則2万円充当されている授業用図書等教材購入費以外に、様々な名目で多額の予算がつけられているが、フランス語には一貫して一切そのような予算はつけられていない。
原告はこのことを指摘している。訴状の「フランス語には一貫して全く予算がつけられていない」とは、全語学共通の比較的少額の予算は当然のことながらつけられているが、それ以外の他のすべての語学につけられている多額の予算はつけられていないということである。
被告の主張は、事実を正しく説明するものではない。
② 被告は、2017年~2022年の法学部語学教育の授業・講座等運営予算を掲げるのみで、英語やドイツ語に多額の予算が充当されている事実をことさらに隠蔽し、しフランス語と英語・ドイツ語との予算格差を隠蔽している。
この表では、授業・講座等の運営予算のみが掲げられているが、語学の予算は、この運営予算のみで成り立つものではない。運営予算は比較的少額なものであり、むしろ法学部の語学教育において多額の予算が割り照られているのは、海外研修予算であり、この予算は、英語やドイツ語に多額の予算が割り当てられている。
もともとは、「海外研修予算」という枠はなく、英語及びドイツ語海外研修予算は、甲第22号証にあるように「法学部負担ロンドン」、「法学部負担ドイツ」という名目のもとに授業・講座等運営予算の枠内に書き込まれていた。
2018年以降「海外研修予算」という予算枠が設置され、それまで「法学部負担ロンドン」、「法学部負担ドイツ」とされていた予算が「大学負担(ロンドン)」、「大学負担(ドイツ)」という名目で「海外研修予算」枠に移され、それに加えて「大学負担(トロムソ)」予算が「海外研修予算」枠に創設された。他方で、2018年以降授業・講座等運営予算枠内に「海外研修経費」という欄が創設された。「海外研修経費」は2018年以降、2020年と21年に30万円ついているのみである。
被告第1準備書面12頁、13頁の表に「海外研修補助」という枠があるが、「海外研修補助」はこの表にしか存在しないフィクションで全くの虚偽である。この表でわずかながら現実に対応しているのは、2017年、18年の英語・ドイツ語各30万円と2019年英語・ドイツ語各15万円、そして2020年、21年の内訳はないが恐らく英語・ドイツ語各15万円のみであるが、これは正確には、被告第1準備書面のこの表以外には存在しない「海外研修補助」予算枠ではなく、授業・講座等運営予算枠の「法学部負担ロンドン」、「法学部負担ドイツ」名目、あるいは「海外研修経費」名目でつけられていた予算である。
被告は、「海外研修予算」と名称の似通っているまぎらわしい名目の「海外研修補助」欄を作出して、2022年に関しては15万円などと存在しないあるいは教授会資料には現れなかった隠し予算である少額の予算を書き込みながら、一方では現実に存在する「海外研修予算」については明記しないという対応をしている。
2020年度10月の法学部定例教授会資料2頁には、授業・講座等運営予算とは別に海外研修予算の頁が設けられている。ここには、海外研修予算が、2018年英語¥710,000、ドイツ語¥1,193,000、2019年英語¥776,000、ドイツ語¥1,622,000、2020年英語¥860,000、ドイツ語¥1,281,000となっている。この額は、2018年英語に関して以外は、訴状15頁に記載してある通りである。
また**の担当するノルウェーのトロムソ研修のための海外研修予算が2018年¥525,000、2019年¥930,000、2020年¥878,000となっており、これも訴状15頁に記載する通りである。
2021年度10月の法学部定例教授会資料9頁にもまた、授業・講座等運営予算とは別に海外研修予算の頁が設けられている。そこには、海外研修予算が、2021年英語¥774,000、ドイツ語¥1,782,000、トロムソ¥949,000と記載されている。これもまた訴状15頁記載の通りである。
さらに2022年度9月の法学部定例教授会資料7頁にもまた、授業・講座等運営予算とは別に海外研修予算の頁が設けられている。そこには、海外研修予算が、英語¥776,000、ドイツ語¥1,965,000、トロムソ¥1,062,000と記載されている。これもまた、とトロムソ以外は訴状15頁記載の通りである。
2022年度9月の法学部定例教授会資料7頁記載の2023年度海外研修予算要求額に至っては、英語¥1、895,000、ドイツ語¥2,543,000、トロムソ¥2,509,000というふうに、英語は200万円近く、ドイツ語とトロムソが250万円超と極めて多額な内容になっている。
③ また、被告第1準備書面の運営予算を見るだけでも、フランス語に対する劣遇措置は見て取ることができる。
授業用図書等教材購入費は、教員一人につき原則2万円当てられることになっている。フランス語は、2017年度から2022年度に、それ以外の予算がついていない。
しかし、2017年度でみると、海外研修補助と中国語検定対策の名目で、中国語の場合約20万円、英語・ドイツ語に30万円つけられている。
同様の傾向は、2018年度以降も続いている。
これだけでも、予算格差とそれによるフランス語に対する劣遇措置が甚だしいことがわかる。訴状14頁に「中国語には2011年から、ドイツ語と英語には2014年以来予算がつけられている」とある通り、2017年以前から数年間このような状態にあった。
④ 予算全体の動きを見ていくと次のようになる。
2018年になると、フランス語は、授業用図書等以外では予算ゼロのところ、被告が第1準備書面12~13頁に「海外研修補助」という名目で示す授業・講座等運営予算枠の中国語22万円超、英語・ドイツ語に30万円に加えて、既に主張した海外研修予算枠として英語¥710,000、ドイツ語¥1,193,000が加わる。となると、概算して、中国語22万円超、英語110万円、ドイツ語150万円近くとなる。フランス語がゼロであることと相違が著しいことがわかる。
同様に、2019年にはフランス語予算ゼロのところ、中国語23万円超、英語・ドイツ語に15万円つけられた上に、被告の提示していない海外研修予算枠として英語¥776,000、ドイツ語¥1,622,000となっており、合計すると、英語93万円近く、ドイツ語177万円超となる。
2020年にはフランス語予算ゼロのところ、中国語22万円近く、英語・ドイツ語に15万円つけられた上に、被告の提示していない海外研修予算枠として英語¥860,000、ドイツ語¥1,281,000となっており、合計すると、英語100万円超、ドイツ語143万円超となる。
2021年にはフランス語予算ゼロのところ、中国語25万円超、英語・ドイツ語に15万円つけられた上に、被告の提示していない海外研修予算枠として英語¥774,000、ドイツ語¥1,782,000となっており、合計すると、英語92万円超、ドイツ語193万円超となる。
2022年にはフランス語予算ゼロのところ、中国語は大きく増額されて42万円、英語・ドイツ語に15万円つけられた上に、被告の提示していない海外研修予算枠として英語¥776,000、ドイツ語¥1,965,000となっており、合計すると、英語93万円超、ドイツ語211万円超となる。2022年度には、フランス語ゼロ、中国語42万円、英語93万円超、ドイツ語211万円超、それに加えてトロムソ106万円超というフランス語と他言語との間にあまりに大きな格差が生じている。
⑤ 原告は、こうしたフランス語に対する著しい劣遇措置について、実情からして、仕方がないものと容認してきたわけではない。
2015年あるいは16年に、原告は、優秀な二人の学生に確認したところ、海外研修制度があればぜひ行きたいということがあったので、法学部**担当教員**に口頭で問い合わせたことがあった。このとき、**氏は、海外研修は教員の付き添いがなくでもできるということであった。しかしその直後、海外研修は教員が付き添わなくてはならないという規則が法学部内で作られた。原告としては、原告の申し出に対する嫌がらせとしか理解できないものであった。
そして、2017年には、ドイツ語契約制外人講師**と中国語契約制外人講師**が専任教員として就任した。ドイツ語については、**が里帰りついでに付き添えるのである。フランス語については原告が行かなくてはならず体力的に無理なので、あきらめた経緯があった。
こうした経緯があって、フランス語予算としては、検定対策費についての手当てをきちんとしてもらいたいのが原告の要望であった。原告は、半額であった検定対策補助をフランス語だけ全額補助にしてほしいと要求した。
原告は、甲第21号証の2017年10月4日当時の**へのメールにあるように、「各語学間の格差・不平等」を訴え批判している。原告は、検定対策費について、甲20号証の2016年8月24日**へのメールで、そして甲第21号証の2017年10月4日**へのメールでも、フランス語に検定対策予算をつけるよう要求している。そして、実用フランス語検定3級・準2級の合格者も基本的に毎年数人ずつ出ていることも知らせている。
このような原告の訴えにもかかわらず、フランス語に対するこうした予算措置は一切つけられなかったし、そのことについての相談も説明もなかった。フランス語に、教員一人原則上限2万円という授業用図書等教材購入費以外に何らの予算もつけられていない状態が継続している。結果、翌2018年以降、フランス語と他言語との予算額の格差は大きくなるばかりで、2018年度からは原告と同じ語学教師**個人の専門分野にかかわるトロムソ研修にまで多額の予算がつけられるようになった。
こうした対応が、被告及び東洋大学法学部に原告に対する悪意がなく行われたということはあり得ないことである。
もし被告及び東洋大学法学部に原告に対する悪意がなければ、原告に対してフランス語海外研修の創設を提案する、あるいは海外研修以外に例えば中国語に毎年つけられている検定対策費をフランス語にもつけるなりの解決策を原告に提案したであろう。しかし被告及び東洋大学法学部からの原告に対するそうした働きかけは一切なかった。
したがって、このようなフランス語予算と他言語の予算との極度の格差による原告に対する劣遇措置が、被告及び東洋大学法学部による原告に対する明らかに意図的なハラスメントである。
⑥ 被告が第1準備書面12~13頁に掲げる法学部語学教育の授業・講座等運営予算表の「授業用図書等」欄には、フランス語予算を大きく見せるためのトリックが仕掛けられていることも述べておく。
例えば、2022年の英語「授業用図書等」は6万円となっており少なくなっている。しかし、「授業用図書等」欄には、この表は予算を示すものであるから、希望すれば使用可能になるはずの最大限の予算額を記載すべきである。「海外研修補助」や「中国語検定対策」はそのようなものとして記載されているので、それとも平仄を合わせなければならない。
つまり例えば英語専任教員全員が上限まで希望した場合の予算額としては、「授業用図書等」予算は、各教員一人あたり原則上限2万円までつく予算であるので、法学部の英語専任教員は8人であることから、2万円×8人で16万円が書き込まれねばならない。
しかし2022年度の英語に記載されている6万円というのは、実際に申請され承認された予算額である。これはこの年度において希望者が少なかったため起こった現象である。フランス語においても同様で、2022年度においては後述する事情でフランス語で申請したものが承認されなかったからである。
フランス語は、専任教員が原告1名なので、「授業用図書等」の予算額は2万円と記載されるべきものである。
⑦ このように、被告は、トリックを用いてフランス語予算を多く見せたり、海外研修枠を隠蔽したりして、意図的にフランス語と他の言語間の甚だしい予算格差を小さく見せようとしている。
⑧ 被告は第一準備書面13頁で「なお、授業用図書予算は、予算要求時に希望図書等について、教員にアンケートを実施しているが、2019年、2021年、2022年については、原告から、回答がなかった。」と述べている。
しかしこれは全くの虚偽である。
2019年については、原告は国内特別研究で授業をもたなかったため、授業用図書等教材購入費はつかないと、2018年8月16日の原告へのメールで当時の**が明言している。
2021年については、前年である2020年に翌年の予算前倒しで授業用図書等教材購入費がつき、2021年度には授業用図書等教材購入費がつかないと**が2021年1月29日の原告宛メールで明言している。
2022年についても原告は下記のURLにて回答し、DVD2万円分を要求しているが、**を始めとする被告及び東洋大学法学部が原告の要求を全く聞き入れなかった。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSftrJYjlQq-x-5zqPJDkuuJc1nk1ZTT3bvB196w39wfHVbFKg/viewform
⑨ 第一準備書面13頁の問題の文において、被告が「授業用図書等」予算とせず、「授業用図書予算」としたことにも仕掛けがある。
被告及び東洋大学法学部は2022年4月に、授業用図書等教材購入費でDVDを購入することができないよう規則を定めたのである。2022年4月法学部定例教授会にて「2022年度法学部予算執行要領」が可決された。この要領の8頁(教授会資料37頁)に「授業・講座等運営費は、授業で使用する図書購入のみが対象です」と書かれている。
2016年までは、授業用図書等教材購入費は教員一人2万円までと設定されており、その範囲内であれば、購入した教材費を当該年度に事後申告すれば予算は降りた。そして、原告はこの制度を積極的に利用してDVD等を購入していた。
被告及び東洋大学法学部は、原告の教材購入を妨害するためにまず、授業用図書等教材購入費を獲得するためには、前年度に翌年度に購入する教材の品目を書いた文書を提出することを2017年度から義務化し、それによって授業用図書等教材購入費獲得の手続きを煩瑣にした。2016年度まではそのような手続きは全く必要でなかった。手続きの煩瑣化は原告の教材購入とフランス語教育を妨害する意図によるものである。
2017年8月26日の当時の**へのメールで原告は、フランス語教育においてDVD教材が他言語におけるよりも重要である理由を明確に説明した。「フランス語は、音と綴りの差が甚だしいという特性があり、書き取り練習が一番大事な勉強法となります。したがって、視聴覚教材の授業運営に占める位置は他言語の場合よりはるかに大きくなります。また、既成の語学教科書の録音テープにあるようなフランス語を喋るフランス人はいないわけで、私は自作の教科書を使い、聴かせるのは映画DVDの教材用ではないナチュラルスピードのフランス語にしています」。
2017年度には、2017年8月31日の原告へのメールで当時の**も明言する通り、3万円までは降りるとされたが、翌2018年度から上限2万円が定められた。
そして2022年には前述の通りDVD購入に授業用図書等教材購入費予算は降りなくなった。
このように、フランス語教育においてDVD教材の重要性が他言語におけるよりも大きいということを原告が被告及び東洋大学法学部に説明しているにもかかわらず被告及び東洋大学法学部は、原告のDVD購入に授業用図書等教材購入費予算をつけることを困難にし、最後にはつけないようにし、それによって原告のフランス語教育を妨害し、原告の人格権の核心である原告の専門性、専門的知見を損傷したのである。
⑩ 被告は第一準備書面13頁において次のようにも主張する。
「また、原告が、予算を超えて図書・DVD購入を希望した際には、可能な範囲で対応しており、2017年は、65,000円の予算に対し、105,907円を執行し、2018年は、30,000円の予算に対し、52,022円を執行し、2020年は、42,000円の予算に対し、85,007円を執行した」。
これはまず、予算額の説明自体に誤りがあることは上記⑥で述べたとおりである。
そのことをふまえ、実際に執行された金額については原告には確認ができないので、この主張が正しいというのであれば被告は証拠を持って証明すべきである。
たとえ執行額が被告の主張する通りであるとしても、フランス語には単発的に1年で最大10万円超の予算が3回ついただけのことであり、それは、場合によっては百万単位にものぼる予算が毎年つけられている英語・ドイツ語・トロムソは言うに及ばず、毎年コンスタントに20万~25万円超の予算がつけられついには42万円にも至った中国語と比べても微々たるものである。
したがって、この内容をもって、フランス語と他言語の予算格差とそれによる原告への差別と劣遇措置の存在を否定することは不可能であり、したがって被告のこの主張は訴状への反論として全く機能し得ない。
⑪ 以上により、被告は、予算の説明や執行状況について、数字の書き方や、説明しない事実があることなどの操作を加えることによって、原告のフランス語に対する格別の劣遇措置がないかのように主張しているが、そのことは事実として誤りである。
第2 安全配慮義務と不法行為の考え方について
被告は第1準備書面11頁で、「また、原告は被告に対し、本訴訟において、骨子、労働契約に付随する安全配慮義務違反または、不法行為を主張するところ、どのような予算措置が、どのような理由で、原告に対する安全配慮義務違反また不法行為を構成するか明らかにされたい」と述べている。
この点に対する回答をすることを含め、原告は、改めて安全配慮義務と不法行為の考え方について以下のように整理する。
1 原告に対する「仲間外し」というべき対応の積み重ね
(1)ハラスメント1から9は、原告の人格権に対する攻撃である
基本的に、本件で原告が問題にしているハラスメントは、ハラスメント1から9までを通じ、原告の担当するフランス語教育そのものに対するものというよりは、被告法学部の教職員が、原告に対して、原告のフランス語教育や研究に対する妨害や、嫌がらせを行って、原告の人格権、なかんずくその人格権の中核をなすフランス語教員としての教育、研究を行う自由に対する攻撃を行った人格権を損傷させる行為となっている。
それは、ハラスメント1から9の各行為が、被告の法学部における通常の業務態様として発生したことではなく、また、手違いとか誤りとかといった内容で説明がつくことでもなく、原告に対する悪意(法的には、故意あるいは過失)があって発生したことであることに基づく。
(2)ハラスメント9を例にした被告の故意ないし過失の存在
例えば、ハラスメント9について。
① 被告の原告の担当するフランス語教育に関する予算措置の在り方が問題になっている。ここで被告及び東洋大学法学部は、原告のフランス語と他言語の予算格差についての改善、フランス語に対する予算措置をつけるよう求める、といった原告の度重なる訴えがあり、これに検定対策費という形でフランス語に毎年予算をつけることでも対応は十分可能であったにもかかわらず、授業用図書等教材購入費以外のフランス語予算はゼロにおさえたまま中国語、英語、ドイツ語予算を格段に増やしつつ格差を増大させ、のみならず各教員2万円を上限につくはずの授業用図書等教材購入費に関しても、原告がDVDのみを購入していたことからこれを妨害すべく、2022年にはDVD購入に授業用図書等教材購入費予算がつかないように決定し、それにより事実上原告から法学部各教員の権利であるはずの上限2万円の授業用図書等教材購入費予算を利用する可能性をも奪った。
これにより、原告の長い経歴の結果である専門性の発揮とそれに伴うプライドや名誉を徹底的に損傷することを行った。
このハラスメント9の行為が、被告の法学部における通常の業務態様として発生したことではなく、また、手違いとか誤りとかといった内容で説明がつくことでもないことは、原告が予算措置に対する要望をしたにもかかわらず被告がそれを無視して他語学科目の予算措置には増加計上した事実経緯に照らし明らかである。この行為は、原告に対する悪意(法的には、故意あるいは過失)があって行われたことである。
(3)パワー・ハラスメント該当性
① 被告及び東洋大学法学部のこの行為は、「学校法人東洋大学ハラスメントの防止等に関する規程」に定める「パワー・ハラスメント」の定義に従えば、まさに「就労における権力又はその優越的な地位を利用」した「他の構成員の意に反する不適切で不当な言動」であり、「就労における不利益又は不快感を与え」、原告の長い経歴に由来する専門性の発揮とそれに伴うプライドや名誉を徹底的に損傷することによって「個人としての尊厳を不当に傷つけ」るものであり、原告によるフランス語教育を妨害することから「就労環境に悪影響を及ぼすこと」であり、パワー・ハラスメント以外の何ものでもない。
② パワー・ハラスメントに該当する行為は、それは人格権を侵害する行為であるから、原則としてそれは不法行為の加害行為となる。
③ そして、訴状20頁で指摘のとおり、「安全配慮義務によってパワー・ハラスメントを行わないこと」は「被告にとっては原告との契約上の義務である」から、パワー・ハラスメント行為を行ったこと、それに対して事実を認め謝罪をする、二度と同様の事態を発生させないための対応措置をはかるといった、是正措置を施すべきであるのにそれを行わないことは、必然的に被告は原告に対して安全配慮義務違反を犯していることになる。
2 ハラスメント行為に被告の原告に対する悪意があるとみられる状況について
不法行為においては故意過失の存在が要件となり、また、安全配慮義務違反も損害賠償請求を成立させるためには、被告には故意過失があることが必要になる。
本件においては、パワー・ハラスメントの存在が考えられる以上、このパワー・ハラスメントを引き起こさないように、そうした事態の発生を防止するための予防措置を講じ、また、現実にそうした事態が発生した場合にその事態に適切に対処して、二度とパワー・ハラスメントを繰り返さないための是正措置をとることが必要であるところ、これらについて不注意で対応しないこと、あるいは意図的に対応しないこと、といったことが故意過失の内容になる。
この点、本件においては、被告法学部の教職員が、原告のフランス語の教員としての活動について、意図的にこれを評価せず、あえて仲間外しとしている状況が見て取れる。
そのことは、ハラスメント1から9の各行為それ自体が、なにゆえこのような事態が発生しているかを考えたときにそうとしか考えられないというものであるということが第一であるが、ここで後述する各事実も、その状況を推認させるものである。
これらの各事実の存在に照らし、上記状況があることに照らし、被告には、原告に対するパワー・ハラスメント、またその防止措置をしないことについて、故意があると言ってよいし、それが認められない場合でも少なくとも不注意が存する。
(1)原告の経歴について
① 被告は、その第1準備書面4頁において、「(1)原告の経歴」について「不知」としている。
しかし、被告は、「原告の経歴」のところに書かれた多くの業績や歴程賞受賞等についてすべて知識がある。
② まず、パリ大学博士である点については1999年東洋大学文学部に専任講師として就職する際に提出し、現在は東洋大学法学部教務課保管の履歴書に記載してある。その後の業績については毎年提出する研究報告書に記載している。2019年3月には『日本の起源』を始めとする単著3冊を東洋大学理事長である安斎隆氏に送り、返事の葉書を受け取っている。また、原告が現代詩手帖賞や歴程賞などの褒賞を受け、三田文学編集長、歴程賞選考委員など一定の社会的貢献をしていることは大学HPの教員プロフィールに書いてある上、ウィキペディアも出ていることからそれが社会的な認知を受けていることは明らかである。三田文学編集長については大学に申請書を出している。また原告の編集する「三田文学」2016年秋号が2016年当時の竹村牧男学長の論文を掲載している。
原告が詩人として社会的に認知されていることは2013年の教授昇格の際の資格審査所見として朝比奈美知子文学部教授がはっきりと書いている。
それはまた、原告が詩人として現代詩手帖賞と歴程賞という二つの著名な賞を取り、吉増剛造、松浦寿輝、野村喜和夫など一流の詩人にたちにのみらならず、保坂和志、山下澄人など現代日本を代表する芥川賞作家たちにも高く評価されていることからも明らかである。
2018年10月27日には、前日の読売新聞夕刊に掲載された原告の詩について当時の竹村牧男学長から「深く感銘を受けました」というメールを受けとっている。歴程賞受賞については、原告は当時の竹村牧男学長から祝福のメールを受け取り、大学HPで紹介され、図書館でも展示・紹介された。また、歴程賞授賞式に当時の竹村牧男学長や根岸職員も列席している。原告は2019年3月の教授会では翌年度国内研究となるため挨拶をし、その際にも歴程賞受賞について話した。
③ このように、被告は調べれば簡単にわかる原告の経歴について、あえて「不知」としている。
これは、訴訟上の主張の問題とだけとらえるべきではなく、被告による原告の経歴に対する軽視の姿勢のあらわれである。
(2)原告の病気とそれへの対応について
① 被告は、第1準備書面4頁において、被告は「原告の病気」について「不知」としているが、被告がこの点について事実認識がないということもない。
原告は2009年1月29日にくも膜下出血に倒れ入院したが、これについては被告及び東洋大学法学部に医師の診断書を提出し、同年3月中まで欠勤している。入院及び欠勤願いの提出に関しては、原告の家人が当時の後藤武秀法学部長や林邦男法学部教務課長と電話のやり取りをしている。そのことは、原告の家人のメモ、日記にも記載されている。被告が原告の病気について知らないなどということはあり得ない。
② 原告は、「大学教員としての勤務に支障はない状態である」と主張したとおりであり、2009年のくも膜下出血発症以後2019年まで、研究活動においても教育活動においても事務作業においても勤務に支障ない状態で働いて来た。
研究活動については訴状でも主張した通り、顕著な業績を残している。
また、教育活動についても、原告の2018年までの対面授業(2019年は国内研究で授業はなかった)は概して学生の評価の極めて高いものであって、それは過去の無記名授業評価アンケートに現れている。
③ 被告は、第1準備書面において、原告が、入試監督業務を辞退したとか、対面授業をしなかったとか、原告を論難している。
しかし、この件でむしろ問題なのは被告の対応のほうである。
原告の既往症である、くも膜下出血からの生存者は、例外的少数であること、そのことは統計上明らかであること、新型コロナと脳血管疾患、心疾患など循環器系疾患との因果関係があること、したがって、原告に新型コロナ流行下での対面授業を強制した場合原告の生命と健康が危険にさらされる可能性が決して小さい可能性ではないこと、は公知の事実である。にもかかわらず被告は、原告と他の健康な教員との間に何らの区別を設けることもなく、原告の生命と健康を危険にさらすべく対面授業を一方的に決定した。
原告は、被告のかかる対応から命と健康を守るため、非対面授業の継続を求め、実現してきたものである。
④ 上記①の事情がありながら、被告が③のような対応をする事情は、被告による原告の研究教育活動に対する積極的な軽視がある、としか考えられない。
第3 結論
以上述べたところに照らし、被告の原告に対する不法行為と安全配慮義務違反が認められ、それに基づく原告の賠償請求が認められるところである。
以 上