東洋大学パワハラ裁判
第一審準備書面1
令和4年(ワ)第16508号 損害賠償請求事件
原 告 福田 拓也
被 告 学校法人東洋大学
準備書面1
2022(令和4)年11月4日
東京地方裁判所 民事部第42部合議A係 御中
原告訴訟代理人
弁 護 士 笹 山 尚 人
弁 護 士 本 間 耕 三
本書面では、訴状の主張について、補充する。
第1 訴状請求の原因第5について
原告は、訴状の請求の原因第5掲示の事実について、本件の損害賠償に関する主要事実として主張している。
被告は、原告に対し、原告との労働契約上、安全配慮義務を負うので、第5掲示の事実が安全配慮義務違反を構成するものとなる。
また、第5掲示の行為者、あるいは被告そのものの加害行為となって、不法行為を構成するということにもなる。
以下、第5の事実が、こうした義務違反あるいは加害行為としての意味を持つことについて、若干の事実の指摘とその評価を述べる。
1.ハラスメントの事実経緯1について
ハラスメントの事実経緯1において、原告が主張したのは、定年で退職するフランス語教員について、原告に相談することもなく、勝手に他科目である政治学教員枠に転用されたということである。
被告は、2016年当時フランス語履修者が少ないということを理由にフランス語枠を政治学枠に転用したことを理由にする可能性がある。しかし、それは事実ではない。
直近の3年間を見ても、1年生について、フランス語履修者数がドイツ語履修者数を上回っていた。とりわけ2022年度にあっては、フランス語履修者数がドイツ語履修者数を大幅に上回っている。しかし、ドイツ語教員を減らすという議論もフランス語教員を増やすという議論も起こっていない。履修者の少ないドイツ語専任教員が2人で履修者のより多いフランス語専任教員が1人のままである。
ドイツ語教員****担当
2020年 2021年 2022年
105人 84人 71人
ドイツ語教員****担当
2020年 2021年 2022年
106人 82人 69人
*****と**は二人で同じクラスを担当している。つまり、両者担当の履修者数に若干の相違があるが、ほぼ同数と考えられる。
フランス語教員福田担当
2020年 2021年 2022年
122人 87人 113人
2.ハラスメントの事実経緯5について
ここでは、他の教員が、法学部の職務上必要となる部局、委員会の責任者などの業務負担を負うのに対し、原告に対しては長のつく役職がふられたことはない、との主張である。
この点についてより詳細に見ると次のとおりである。
(1)語学委員会委員長職の担当者
2000年度に文学教養課程が解体されそこに所属していた語学教員が各学部に分属するまでは、法学部に語学教員はいなかった。2000年度から2006年度までは、法学部の語学教育は英語:****、ドイツ語:*****、フランス語:福田、中国語:**の4名によって担われていた。この期間、語学委員会はなかったと記憶している。
2007年度あたりに、英語:**、中国語:**が入って来た。
2008年度に語学委員会が結成された記憶である。
語学委員会とは、法学部における語学関係のことについて協議する委員会である。実際上はこの語学委員会は数年に一度しか開かれない形式上の組織にさせられていて、語学委員会が担当すべきことは学部長などが独自に決めてしまっているのが実際のところであるが、本来であれば、語学委員会において語学教育の在り方について検討協議するものである。
2008年度においては、**が語学委員長に任命された。2008年度限りで、ほとんど東洋大学生え抜きと言ってよく法学部の実力者****らと対立していた英語:****、ドイツ語:*****は定年退職となった。
2009年には新任のドイツ語担当****が語学委員長となり、その上、やはり新任のフランス語担当*****がフランス語の「核となる教員」に指定され、原告はことさらに無視された。
その後、語学委員会は何度か名前を変えているが、ドイツ語担当****の後任として委員長になったのが2015年頃に入って来た中国語担当****で、その後数年間委員長を務めた。
現在、国際交流委員会と名前を変えた語学関係者の委員会の委員長は、2016年頃に入って来た法律専門教員の周である。
法学部の語学教員で原告は、一番古株となったが、一度も語学委員長を担当したことがない。
(2)現在の学内委員会の委員長
2022年度の学部内委員会の委員長は次の通りである。ここでも原告はどの委員会の委員長をも務めていない。
入試委員会:**、カリキュラム検討委員会:*****、国際交流委員会:*、FD委員会:**、刊行物出版委員会:**、図書委員会:*、学生生活委員会:*****、人事構想・将来構想、教員資格審査委員会:学部長、自己点検・評価委員会:*、予算委員会:**、ゼミ発表会:**、法律討論会:**、模擬裁判:**
これらの役職も交代で委員長職がまわってくるが、原告はこの20年、一度もこれらの委員長に指名されたことがない。
大学においては、教員達は、大学の自治を実現する観点から、大学の運営に必要な事務、仕事を分担しあうものである。そのようであってこそ、教職員一丸となって当該大学を自主独立なものとして保つことができることになるからである。
3 不法行為性の検討
(1)訴状請求の原因第5,掲示の事実によって侵害されるのは、原告の人格権である。
人格権は、個人の尊厳と幸福を追求する権利(憲法第13条)の具体的内容をなすものであるが、当然その当該個人や、問題となっている場面によって、ある個人のいかなる内容の人格権が侵害されるものであるかは異なってくる。
本件の場合、原告が、被告が運営する東洋大学の専任教員であり、教授という地位を保持する者であることから、憲法上の人権である学問の自由(憲法23条)の主体としての属性、大学の自治を具体化する立場にあることに、人格権の内容が結びついている。
すなわち、学問の自由、大学の自治を淵源として、原告には、大学教員として大学の運営とその過程に参加し、当該大学で自らの研究テーマについて学究を深め、研究成果を発表したり、それに基づく学生への教育を施すことを行うことを可能とする地位があり、この地位を保持し行使することについての尊厳が人格権の内容をなすものである。
したがってこの地位を脅かす行動が行われると、原告の人格権が侵害されるものとなり、加害行為は、原告の人格権を侵害する違法行為となる。
(2)この考え方を表明している判例もある。東京地判令2.10.15労働判例1252号56頁、学校法人国士舘ほか事件である。
この事件は大学教授に対する懲戒解雇・降級処分の効力が問題になった事件であるが、当該教授の保有する地位、権利性について次のように述べている。
「学校教育法は、学長は校務をつかさどり(92条3項)、教授会は、教育研究に関する重要な事項で、教授会の意見を聴くことが必要なものとして学長が定めるものについて、意見を述べるものと定める(93条3項)。そして、本件大学の学則は、学校教育法の前記規定と同旨の定めを置き・・・、本件大学の学長は、要綱において『教育課程の編成に関する事項』を教授会の意見を聴くことが必要なものとして定めている・・・。」
「したがって、本件大学においては、学長が教育課程の編成について決定する権限を有し、授業担当の決定もこれに含まれるから、学長が授業担当を決定する権限を有すると認められる。」
「もっとも、大学は、学術の中心として広く知識を授け、深く専門の学芸を教授研究し、知的道徳的及び応用的能力を展開するため教育研究を行い、その成果を広く社会に提供するのが目的であり(教育基本法7条、学校教育法83条)、大学の専任教員にとって、授業を担当することは、広く知識を授け、深く専門の学問を教授研究するために不可欠であるといえるから、大学の専任教員にとっての授業担当は、労働契約上の義務にとどまらず、権利でもあると解するのが相当である。」
「したがって、学長が、教育課程の編成を決定するに際し、大学の専任教員の授業担当の権利を制限するためには、これを正当とするだけの合理的理由が必要であり、このような合理的理由が認められない場合には、当該授業担当の権利の制限は、権利濫用として無効となるというべきである。」
(3)この学校法人国士舘ほか事件にあるように、「大学の専任教員にとっての授業担当は、労働契約上の義務にとどまらず、権利でもある」であるのだから、事実経緯1にある***教員の授業枠について、原告が直接担当する授業枠ではないものの、原告が担当するのと同じフランス語枠教科が行われている授業枠について、原告はこの授業枠を維持することについて、原告が担当しているのと同等の権利性がある。この権利性がある枠をなくしてしまうという話しであるのだから、被告は少なくとも、原告に対し意見聴取を行ってからフランス語枠をなくしても問題ないかを検討するべきであったし、他学科に振り替えることを正当とするだけの合理的理由が必要であった。
しかるに、被告は原告になんらの相談もしなかったし、フランス語枠をなくす合理的理由は存在しなかった。
(4)また、法学部教員の中で原告だけ役職を与えないのは、原告を仲間はずれにするものであるから、事実経緯5についていえば、原告の人格的尊厳を傷つけるものである。それは、大学の自治の一端を担うという原告のプライドを著しく毀損するものでもある。
以 上