東洋大学パワハラと不正裁判を糾弾する会

東洋大学パワハラ裁判
控訴審準備書面1

令和6年(ネ)第1270号 損害賠償請求事件

控訴人(一審原告) 福田 拓也

被控訴人(一審被告) 学校法人東洋大学

控訴準備書面1

2024(令和6)年6月17日

東京高等裁判所 第8民事部 御中

控訴人(一審原告)   福  田  拓  也


控訴理由書第2章「原判決の違法性」第4「事実認定及び法令解釈適用の違法」5「本件行為5」に以下の主張を付け加える。

第1 原審における部分社会の法理援用の違法性

1 原判決の判示

「大学における学問の自由(憲法23条)を保障するために、伝統的に大学の自治が認められており、この自治は、特に大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長をはじめとする役職者は大学の自主的判断に基づいて選任されるべきものと解される。したがって、大学における役職者の選任の当否のごとき問題は、それが一般市民社会の法秩序と直接の関係を有するものであることを是認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審査の対象にならないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和31年(あ)第2973号同38年5月22日大法廷判決 刑集17巻4号370頁、同裁判所昭和46年(行ツ)第53号同52年3月15日第三小法廷判決 民集31巻2号280頁各参照)」。「そうすると、原告の上記主張は、基本的に裁判所の司法審査の対象とならない大学内部の問題についての不満を述べるものにすぎず、原告が各種委員会の長に選任されないことが一般市民社会の法秩序と直接の関係を有するものであることを是認するに足りる特段の事情があるとも認められないから、原告の上記主張は、主張自体失当であるといわざるを得ない」。

2 判示の違法性

(1)原判決による判例引用の不当性

ア 当該判示における「自律的な法規範」という重要契機の欠落

 上記判示は、部分社会の法理に依拠し、大学による単位認定行為に関しての司法権の介入の是非を巡る最高裁判決の次の部分を引用に近いほどに踏まえている。「単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である」(最高裁判所昭和46年(行ツ)第53号同52年3月15日第三小法廷判決)。

 しかるに、当該判示は、「自律的な法規範」という部分社会の法理の重要な一契機を欠落させ、その論理構造を歪めた形で部分社会の法理を呈示する点で不当なものである。田中祥貴は「地方議会の内部規律と部分社会の法理」において、「一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない」、 「その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあ」り、「自律的な 法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置 に任せ」るべきものとして、司法審査の対象を限界付けた」昭和35年村議会懲罰決議等取消請求事件最高裁判決を援用している。田中によれば「部分社会の法理を判例理論として確立させた」ものであり、原判決も参照する最高裁判所昭和46年(行ツ)第53号同52年3月15日第三小法廷判決には、次のようにある。「一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である」。つまり、単なる部分社会ではなく、あくまで「自律的な法規範を有する特殊な部分社会」に関してのみ、部分社会のある行為が「自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、 裁判所の司法審査の対象にはならないもの」となるのである。

イ  当該判示における「設置目的」という重要契機の欠落

 上記事情に加えて、大学という部分社会にあっては、「学生の教育と学術の研究」という設置目的があり、大学が、学則等「自律的な法規範」によって設置目的を実現するために必要な諸事項、つまり様々な学内業務を実施する「自律的、包括的な権能」を有しているとされ、この権能によって初めて「大学の自主的、自律的な判断」が可能になり、大学が「裁判所の司法審査の対象にはならない」という事態が可能となるのであることは、最高裁判所昭和46年(行ツ)第53号同52年3月15日第三小法廷判決の次の部分からも明らかである。「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であつて、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、 一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものであることは、叙上説示の点に照らし、明らかというべきである」。

ウ 判例引用の不当性

 上記から、原判決は、最高裁判所昭和46年(行ツ)第53号同52年3月15日第三小法廷判決の一部分の引用により、「設置目的」と「自律的な法規範」という部分社会の法理の論理構造の有する重要な要素を欠落させた形で、部分社会の法理を提出し、あたかも当該二要素なしでも「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入が可能であるかのような虚言を吐いている点において、不当なものである。

(2)部分社会の法理の根本論理

大学に関する部分社会の法理の根本論理を要約すると、まず「学生の教育と学術の研究」という設置目的があり、学則等「自律的な法規範」によってこれを実現するために「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入が尊重されるべきだということになる。

(3)「学生の教育と学術の研究」という設置目的の侵害

ア 判示の違法性

 しかるに、控訴人が第一審弁論で十分に主張したように、本件行為1~9及び「付随的ハラスメント」のほとんどが、控訴人の教育活動及び研究活動の妨害を通しての「学生の教育と学術の研究」という設置目的を侵害し蹂躙するものであることを鑑みれば、設置目的を学則等「自律的な法規範」を通して達成するために尊重されるべき「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入を、部分社会の法理を援用しながら、本件行為5を含む本件行為1~9を審理判断するにあたって尊重すべきであると判示する原審の認定判断は極めて不合理かつ誤ったものであり、経験則違反の違法及び法令の解釈・適用の違法があると考えるほかはない。

イ 本件行為5について

 本件行為5に関しても、精神的圧力を20年以上にわたって控訴人に加え続けることにより、控訴人の研究を妨害することであると言え、また、フランス語担当教員としての控訴人の法学部内での立場を悪くし、控訴人の発言力を奪うことを通して、控訴人のフランス語教育を妨害する、あるいは少なくとも控訴人のフランス語教育の妨害を容易にするものと言え、その上、本件行為1~9及び「付随的ハラスメント」等からなる大規模かつ組織的な本件パワハラ総体の一環とみなされ得るものであるから、本件行為5もまた、これを、控訴人の教育活動及び研究活動の妨害を通しての「学生の教育と学術の研究」という設置目的を侵害し蹂躙するものとみなすことができる。

(4)「 自律的な法規範」の侵害

ア 「自律的な法規範」違反

(ア)「東洋大学就業規則」違反

 控訴人が第一審弁論で主張したように(準備書面5)、本件行為1~9及び「付随的ハラスメント」のすべてが、「学校法人東洋大学ハラスメントの防止等に関する規程」に定める「パワー・ハラスメント」定義に照らしてパワハラであると認定されるべきものであり、「東洋大学就業規則」第6条に「教職員は、次の各号に関する行為をしてはならない」とあり、その中に「(7)ハラスメント行為」と掲げられている事実、及び同第48条に「教職員が、次の各号のいずれかに該当する場合は、別に定める懲戒委員会に諮ったうえ懲戒する」とあり、その中に、「(8)ハラスメント行為があった場合」とある事実(訴状、5頁)を鑑みるに、被控訴人東洋大学が「自律的な法規範」である「東洋大学就業規則」に違反していることは明白である。

(イ) 「学校法人東洋大学ハラスメントの防止等に関する規程」第18条7項違反

 控訴理由書第2章第3、1(1)イ、(2)及び第4、11(2)に主張した通り、被控訴人東洋大学は、令和3年4月に当時法学部長であった****をハラスメント防止対策委員とし、しかも同年9月に被控訴人側の弁護士****が調査・苦情処理委員会がハラスメント防止対策委員から独立していないことを明言した事実から明白な通り、「学校法人東洋大学ハラスメントの防止等に関する規程」第18条7項に違反している。

(ウ)専任教員授業担当コマ数の違反

 被控訴人東洋大学は、専任教員授業担当コマ数という取り決めに違反し、控訴人に令和5年には授業を週4コマしか担当させず、令和6年には授業を全く担当させていない。(被控訴人第3準備書面、控訴理由書兼訴え変更申立書第3章、第2、2)

イ 東洋大学を部分社会とみなすことの不合理性

上記アからして、被控訴人東洋大学は、学内業務を通して、「東洋大学就業規則」等、自身が部分社会であるための条件であるとみなされる「自律的な法規範」に違反し、これを侵害しており、これにより「自律的な法規範」を自らなきに等しいものとし、その存在を否定しているのであるから、上記(2)からして、「学生の教育と学術の研究」という設置目的を学則等「自律的な法規範」によって達成することによってこそ部分社会としての大学が成立する事情を鑑みるに、東洋大学を部分社会とみなすことは不可能であり、したがって、部分社会において尊重されるべき「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入を東洋大学に対して認めることは不合理である。

(5)当該判示の違法性

ア 東洋大学に「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入を認めることの不合理性

上記(3)(4)から、本件行為1~9及び「付随的ハラスメント」のほとんどが「学生の教育と学術の研究」という設置目的を侵害し蹂躙するものであり、すべてが「自律的な法規範」を侵害し、その存在を否定するものであることを鑑みると、東洋大学を部分社会とみなすことは不可能であり、東洋大学に部分社会が享受し得る「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入を認めることは全くの不合理である。

イ 当該判示の違法性

 上記アから、東洋大学に対して「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入を認め、これを尊重すべきであるとした原審の審理判断は極めて不合理かつ誤ったものであり、経験則違反の違法及び法令の解釈・適用の違法があると考えるほかはない。

大学に関する部分社会の法理の根本論理を要約すると、まず「学生の教育と学術の研究」という設置目的があり、学則等「自律的な法規範」によってこれを実現するために「大学の自主的、自律的な判断」及び司法権の不介入が尊重されるべきだということになる。